小学校プログラミング教育とmicro:bit ~これから学校のプログラミング教育現場と関わろうとする技術屋向け~
※この記事は、micro:bit Advent Calendar 2019 - Qiita の22日目として書きました。
以前、書いた記事 。
あれから1年半。気づけばプログラミング教育業界にどっぷり(^^)。現在は、本業(システム開発)の合間を縫いながら、全国各地を回り学校の先生を相手に micro:bit の楽しさや授業での使い方について、研修会や展示会を実施させて頂いています。
正直、学校の先生にプログラミングを教えるより、子供達とプログラミングで遊んだ方が楽しい(^^)のですが、先生を1人プログラミングの世界に引きずり込めば、その先生の先には何百人もの子供達がプログラミングの楽しさを経験する事になります。とりあえず、日本のプログラミング教育の歯車が回り始めるまでは、微力ながら関わって行きたいと思っています。
以下、これから、小学校のプログラミング教育現場と関わろうとする技術屋(プログラマー、他)の方向けにmicro:bitを軸に留意事項をまとめてみました。
が... そんな人、どのぐらいいるんでしょうか?(^^;)
- 1.プログラミング教育の手引
- 2.目線を相手に合わせ「楽しい」を伝える
- 3.A分類6年理科「電気の利用」
- 4.micro:bitを学校で使う場合の注意点
- 5.現場への関わる場合の留意点
- 6.教科担任制の動き
- 7.終わりに
1.プログラミング教育の手引
これから関わろうとしている技術屋の方は、まずは、小学校プログラミング教育の手引 に目を通しましょう。技術屋から見ると、ツッコミを入れたくなるところが一杯あると思います。でも、ここは一つ、ツッコミを入れながら楽しく読みましょう(^^) これを読んでおかないと学校の先生方とは会話が成り立ちません。余力があれば、指導要領も関連する単元については目を通しておくと良いと思います。
また、関わる地域で2020年に導入される教科書会社を把握しておきましょう。「教科書会社名 プログラミング」で検索すると、どんな切り口で書いてあるか窺い知る事が出来ると思います。
2.目線を相手に合わせ「楽しい」を伝える
あたりまえですが、先生方の目線に合わせる必要があります。私も含め技術屋はこれが苦手な人が多いと思います。
小学校段階では、プログラミングを学ぶのが目的ではありませんし、通知表の評価対象でもありません。まずは理屈よりプログラミングの「楽しさ」を伝えるのが重要だと思っています。また、この「楽しさ」を伝えるネタは、後日、先生が授業でも簡単に再現が出来るネタが好ましいと思います。
3.A分類6年理科「電気の利用」
micro:bit は、多くの単元で活用できるシーンがあると思っています。ですが、小学校でmicro:bitを導入するきっかけとなるのが、例示*1とはなっていますが事実上のプログラミング必須単元、6年理科「電気の利用」です。これは、フィジカルコンピューティングの扉を開く重要な単元です。これまで使う側だった子どもたちが「自分でも作れるんだ!」という引き出しを持つ大切な授業だと思っています。
3.1.教科書と他の教材について
2020年に向けて、「電気の利用」を行うための様々な教材が溢れているのが現状です。ですが、来年の新しい教科書に掲載が決定したのはアーテックのスタディーノとSonyのMESHの2種類だけです。教科書は何年も前から準備が進められるため、2017年に国内発売を開始したmicro:bitは間に合わなかった形となりました。
ただ、文科省も教科書に載っている教材を使わなくても良いと言っています。
教材としてはこの他に、LEGO WeDo、みんなのコード プログル理科、内田洋行 プログラミングスイッチ、スイッチエデュケーション いぬボード、スクーミー、BOSON、カシワニ、IchigoJam、Raspberry Pi、Arduino他、数多くの教材があります。
私はmicro:bitが大好きなので、出来ればmicro:bitを使ってもらいたいと思いますが、無事、プログラミング教育の歯車が回るのであれば、何を使っても良いと思っています。
なお、どの教材を導入するかは学校裁量となっています。
3.1.1.「電気の利用」模擬授業体験イベント
話が少し脱線しますが、先日、素晴らしいイベントがありました。
技術屋的には「とりあえず、いろんな教材を試して比較してみればいんじゃない?」と思うのですが、先生方はそう簡単ではありません。
- 学校側で買ってもらう事が簡単には出来ない。(熱い先生の多くは、自費で買っています...)
- 入手出来たとしても忙しくて比較している時間が無い。
- 時間が作れたとしても、判らなかった時に助けてくれる人がいない。
先日、この問題に対して、有志の先生方が立ち上がり、素晴らしいイベントが開催されました。
このイベント、学期末が押し迫った日曜日にも関わらず、自腹を切って全国から約200名の学校の先生が集結しました。
日本の先生方も捨てたもんじゃー無いです。
3.2「電気の利用」のポイント
6年理科理科「電気の利用」の指導要領解説について、平成29年告示で追加されている部分を抜粋してみました。
授業の展開方法については、技術屋のみなさんや先生方によって、考えが分かれるところだと思いますが、展開方法に正解は無いと思っています。
私が電気の利用の組み立てで心がけているのは、
- 初めて思い通り動いた瞬間の感動をみんなで分かち合う
- 身の回りの物がブラックボックスではなく、どんなプログラムで動いているか、子どもたちが想像出来るようにする
の2点です。
以下、身の回りの物の例です。
こうして見ると、micro:bit本体の明るさセンサーだけだと出来る事は少ない事に気づきます。出来れば人感センサーも用意してあげたいところです。
なお、予算の関係で人感センサー(赤外線センサー、距離センサー等)が購入出来ない場合のアイディアを2つ。
- 100均で売っているビームが出来るLEDライトで代用が出来ます。LEDライトの光をmicro:bitに照射します。人が通過するとこの明かりがカットされるように設置をすれば人を検知する事が出来ます。
- 板2枚+窓の隙間貼りテープ(もしくは厚めの両面テープ)+アルミホイル+ミノムシクリップケーブルでマットスイッチを作ります。人が踏むと2枚の板に貼り付けたアルミホイルが接触。アルミホイルに取り付けたミノムシクリップを通じて、P0とGNDが接続されるようにすれば人を検知する事が出来ます。
いずれも立派な人感センサーです。一点、前者は、省エネの単元なのにLEDライトがつけっぱなしなのがツッコミどころだと思います(^^)
あとは、ある小学校の先生が実践された授業なのですが、micro:bitが1セットしか無い中、基本、MakeCodeのシュミレータだけで授業を行い、班ごとに発表。優秀作品を先生のmicro:bitにインストールして、みんなで動作確認をするという組み立てです。これはこれで、ダウンロードのトラップで授業が頓挫する事もありませんし、選ばれた子供は一生忘れない思い出になるかもしれません。コストをかけない授業のアイディアはいっぱいあると思います。
4.micro:bitを学校で使う場合の注意点
学校現場には企業の論理では理解が出来ない事が一杯あります。以下は、私が環境が判らない現場にmicro:bit一式を持ってお邪魔する前に、必ず聞くインタビュー項目です。
- 端末環境の確認
- Windowsの場合
- USBメモリが許可されているか?
- 空いているUSB-Aポートがあるか?
- デスクトップPCの場合、机の上置きか、机の下置きか?
- 用意するUSBケーブルの長さが変わります
- WebUSBが使えるか?使えなければWindows10 makecode アプリが入れられるか?
- micro:bitでの躓きポイントは「ダウンロード」です。時間が限られている公開授業や研修会では、出来ればワンクリックでインストール出来る環境を整えたいところです。
- ちなみに2020年1月にリリースされる予定の新しいMicrosoft Edgeは、WebUSBが使えます。
- iPadの場合
- 既存教材の確認
- 手回し発電機、コンデンサー、LED等
- ICT支援員の有無の確認
- 公開授業等でICT支援員が張り付いてくれる場合は、予め支援員の人に相談をしておいたほうが良いと思います。
5.現場への関わる場合の留意点
私の少ない経験を元に、シチュエーション別にまとめてみました。
5.1.教育委員会の研修会や有志の勉強会での講師
やる気のある先生がやってきます。スキルもある程度高い先生の集まりである事が多いので、教えるのはとてもやりやすいです。私の失敗としては、はじめの頃、技術的な事を一杯話し過ぎてしまいました。また、職業病で、企業間のプレゼンノリで時間いっぱい喋りまくってしまいました。ある先生から、「一方的に話すのではなく、先生方に考えさせてアウトプット(書いてもらう、作ってもらう、班で相談してもらう、発表してもらう、etc)する時間を作る事が大切」だとアドバイス頂きました。
5.2.プログラミング推進校のサポート
各地域にプログラミング推進校というのがあります。プログラミング推進校は各種教材の研究を行い、最終的には、近隣の小学校の先生方のお手本となるような公開授業を行う事になります。アサインされている担当の先生は、その学年でエース級の先生だったりするのですが、公開授業を見に来る先生の中には、プログラミングが苦手な先生方も含まれています。私個人の主観ですが、担当される先生は、欲張りたくなる傾向があるように思います。プログラミングが苦手な先生が見ても「これなら私にも出来る」と思ってもらえるような授業になるよう、関わる技術屋の人はサポートする必要があります。
5.3.校内研修・xx部会での講師
プログラミングが苦手な先生が多く含まれています。プログラミング的にも電気的にも正しさを保ちつつ、徹底的にハードルを下げて、動いた時の感動体験に持っていく必要があります。一番、難しい現場ですが、やりがいのある現場でもあります。意外に苦手な先生程、動いた瞬間にいいリアクションをしてくれたりします。(^^)
5.4. 子どもたちへの授業
個人的には一番、楽しい関わり方なのですが、これはお断りをしています。先生は楽が出来ますが、私が去った後、継続がされません。プログラミング教育の歯車を回すには、先生のスキルアップをお手伝いするのが私の役割だと思っています。
6.教科担任制の動き
先日、こんなニュースがありました。
賛否両論あると思いますが、現場の現状を考えると致し方ない気もします。小学校プログラミング教育の歯車が回り始めるのは、実は2022年なのかもしれませんね。
7.終わりに
指導要領を見ると、私が受けてきた教育とは大きく転換しようとしている事が判ります。30年以上プログラミング業界に携わってきて思うのは、「日本にとってこれが最後のチャンスなんじゃないか」って思うんです。技術屋の皆さんの力が、今、教育の現場で必要とされています。
最後、ちょっとCMになります(^^)。「技術屋だけどいきなり学校にコミットなんか無理だよ」という事であれば、 お近くのCoderDojo https://coderdojo.jp/ のボランティアから初めてはいかがでしょうか?学校でプログラミング教育がスタートすると、「もっとプログラミングをやりたい!」という子どもたちが一定量、出てくると思います。この子どもたちの受け皿は学校では時間的にも無理です。参加費無料で全国に約200箇所あるCoderDojo は F分類の受け皿として、大切な役割を担っていくと思っています。
以上、まとまりの無い長文、最後まで読んで頂き有難うございました。
*1:他の教科・単元、例えば算数6年の「拡大図と縮図」でScratchでやっても良いそうです